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最高裁判所第二小法廷 昭和55年(行ツ)14号 判決 1983年9月30日

上告人

高橋榮喜

上告人

岩村巖

右両名訴訟代理人

萩原健二

播磨源二

山本博

秋山泰雄

安養寺龍彦

草島万三

戸谷豊

金子光邦

小沼清敬

被上告人

高知郵便局長

川添清

右指定代理人

藤井俊彦

外八名

主文

原判決を破棄する。

本件を高松高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人萩原健二、同播磨源二の上告理由一について

一原審が確定した事実は、おおむね次のとおりである。

1  昭和三二年一二月二七日郵政省と全逓信労働組合との間に締結された年次有給休暇に関する労働協約及び昭和三三年五月二四日国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法六条の規定に基づき制定された「郵政事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規程」(以下「本件労働協約等」と総称する。)は、郵政事業に勤務する一般職の国家公務員(以下「職員」という。)の年次有給休暇(以下「休暇」という。)につき、次のとおり定めている。

(一)  休暇の発給日数及び種別一休暇年度(四月一日から翌年の三月三一日まで)における休暇の発給日数は、その年の四月一日現在の在職者については二〇日とする。そのうち、当該職員がその年度中に満年に達する勤続年数の数に相当する日数(ただし、一五日を超えない。)に五日を加えた日数を労働基準法(以下「法」という。)三九条所定の休暇である法内休暇の日数とし、二〇日から法内休暇の日数を差し引いて得た日数を協定休暇の日数とする。

(二)  休暇の有効期間

その発給年度の終了後二年間とする。

(三)  休暇の付与方法

計画付与と自由付与に区分してこれを与える。

計画付与の対象となる休暇(以下「計画休暇」という。)の日数は、前年度の発給日数であつて前年度において与えられなかつた日数のうち一〇日に達するまでの日数及び前々年度の発給日数であつて前年度までに与えられなかつた日数とする。

自由付与の対象となる休暇(以下「自由休暇」という。)の日数は、その年度において前記休暇の有効期間内にある休暇の日数のうち、計画付与の対象とならない部分の日数とする。

(四)  計画付与の方法及び手続

計画休暇の日数のうち前年度の発給に係る分については、所属長が年度の初頭において職員の請求により業務の繁閑等をしんしやくして各人別に当該年度中の休暇付与予定計画を立て、これによりその休暇を与える。ただし、所属長において年度の途中にその計画の変更を必要と認めたときは、当該年度中にその休暇を付与する場合に限り、右の趣旨に準じてこれを変更することができる。

計画休暇の日数のうち前々年度の発給に係る部分については、所属長がその年度の五月から順次各月について一日ずつ割り振り、かつ、前年度の発給に係る分に準じてその休暇を与える。

計画休暇の付与を受ける職員は、年次有給休暇請求書にその希望する時季(特定の月日をいう。)を記入した年次有給休暇付与希望調書を添付して、所属長に、その定める期日までにこれを提出する。所属長は、できるだけ当該職員の希望する時季に休暇を割り振るよう考慮して休暇付与予定計画を決定し、これを当該職員に通知する。ただし、所属長において、当該職員の希望する時季に休暇を割り振ることが困難と認めたときは、その旨当該職員に通知し、他に希望する時季を申し出させるとともに、これによるもなおその者の希望する時季に休暇を割り振ることが困難であると認めたときは、当該年度中の他の適当と認める時季にこれを割り振つてその計画を決定し、これを当該職員に通知する。

(五)  自由付与の方法

自由休暇については、所属長は、職員のその都度請求する時季にこれを与えなければならない。ただし、所属長において請求された時季に休暇を与えることが業務の正常な運営を妨げると認めた場合においては、休暇の有効期間内の他の時季にこれを与えることができる。

2  上告人らはいずれも高知郵便局集配課に勤務し集配業務に従事する郵政事務官であるところ、集配課長が昭和四六年度の初頭において決定した休暇付与予定計画において、昭和四六年六月二六日は上告人岩村の計画休暇付与予定日とされ、同月二四日は上告人高橋の計画休暇付与予定日とされていたところ、集配課長は、同月二四日上告人岩村に対し同月二六日の計画休暇付与予定日を変更する旨通知し、同月二三日上告人高橋に対し同月二四日の計画休暇付与予定日を変更する旨通知した。しかし、上告人岩村が同月二六日に、上告人高橋が同月二四日に、それぞれ欠勤したため、被上告人は、昭和四七年一月一三日、上司の出勤命令を無視して無断欠勤に及んだ上告人らは国家公務員法九八条一項及び一〇一条一項前段に違反し同法八二条一号及び二号に該当するとして、上告人らに対し戒告の処分をした。

3  昭和四六年六月二七日の参議院議員選挙投票日を控え、高知郵便局における同月二四日ないし同月二六日の要配達一般郵便物の中には選挙運動期間の後半になつて差し出されることの多い選挙関係の郵便物が混在していたため、その配達を遂げるためには、郵便物全部の配達を完了する必要があることから、同郵便局においては、右要配達郵便物全部の即日完全配達を期していた。

上告人岩村は高知郵便局集配受持区域のうち主として市内三区の配達を担当していたところ、同区の配達は平常の場合常勤職員一名が担当し、その一日の配達可能通数は約八〇〇通であつたが、同月二六日の要配達通数は当時の状況から約一五〇〇通と見込まれ、これを同日中に完全に配達するためには常勤職員二名の配置が必要であり、そのうちの一名として上告人岩村を配置することが必要となつたため、集配課長は、前記のとおり、上告人岩村の同日の計画休暇付与予定日を変更した。また、上告人高橋は主として市内五〇区の配達を担当していたところ、同区の配達は平常の場合常勤職員一名が担当し、その一日の配達可能通数は約七〇〇通であつたが、同月二四日の要配達通数は当時の状況から約一三〇〇通と見込まれ、これを同日中に完全に配達するためには常勤職員二名の配置が必要であり、そのうちの一名として上告人高橋を配置することが必要となつたため、集配課長は、前記のとおり、上告人高橋の同日の計画休暇付与予定日を変更した。

4  高知郵便局集配課においては、年度途中の予測できない病気休暇や職員の希望による計画休暇の変更が従来少なくなく、また、郵便集配業務の特殊性として郵便物数を前もつて把握することが困難であるところから、年度の初頭における休暇付与予定計画の決定に当たつては、職員の希望日をそのまま計画休暇付与予定日とし、その変更については、集配課事務室内に設置された担務板に職員の氏名札を掲出してその出勤を命じ、職員はこれにより翌日の担務内容と計画休暇付与予定日の変更を知るという方法を採用してきた。そして、昭和四六年度において、集配業務に従事する職員の絶対数が不足していたという事実はなく、同年度中の計画休暇はすべて付与されており、職員一人当たりの休暇消化日数も平均19.5日に及んでいた。

二原審は、計画休暇は法三九条所定の休暇ではなく、本件労働協約等により認められた休暇であるから、その付与及び時季変更については、同条三項の適用がなく、本件労働協約等の定めるところに従うべきであり、本件労働協約等の下においては、同項ただし書の基準とは異なり、所属長が、業務の繁閑等各般の事情を考慮し、その状況に応じた合理的判断の下に、休暇付与予定計画の変更が業務の運行上必要であると認めたときは、年度の途中においても、これを変更することができると解するのが相当である、と判示し、かつ、右変更には事前に予測の困難な突発的事由の発生など特別の事情の存在することが必要であるとの上告人らの主張を排斥している。そして、原審は、上告人らの所属長による前記計画休暇付与予定日の変更は、右の基準に照らして適法かつ有効であり、したがつて、上告人らに対する戒告処分も適法であると判断している。

三本件労働協約等は、職員の休暇を法三九条所定の休暇である法内休暇と本件労働協約等により創設された休暇である協定休暇との二種に区分した上、休暇の有効期間は発給年度の終了後二年間とするとしており、法内休暇についても発給年度の次年度及び次々年度に繰越可能であるとの解釈を採用しているといえる。また、本件労働協約等は、右有効期間内における休暇の付与方法を計画付与と自由付与との二種に区分し、自由付与の対象となる自由休暇について、それが法内休暇であるか協定休暇であるかを問わず、また、当該年度に発給された休暇であるか前年度に発給された休暇であるかを問わず、職員の請求する時季に与えるものとし、所属長において請求された時季に与えることが業務の正常な運営を妨げると認めた場合に限り、他の時季に与えることができるとしており、自由休暇の付与及びその時季の変更については、一律に法三九条三項の基準によるべきこととしているものといえる。更に、本件労働協約等は、計画休暇については特に年度の初頭において休暇付与予定計画を立てることとしているのであつて、計画休暇の時季の変更につき自由休暇のそれより緩やかな基準を採用しているとは解し難い。そして、本件記録に徴すれば、上告人ら及び被上告人の双方共に、休暇付与予定計画の変更が許されるのは、右計画を実施することが法三九条三項ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られるとの解釈を採つていることが明らかである。以上を総合勘案すれば、本件労働協約等は、法内休暇、協定休暇の区別を問わず、休暇を法三九条所定の基準により一律に取り扱うこととしているものと解するのが相当である。したがつて、計画休暇の請求及び時季変更についても、それが法内休暇であるか協定休暇であるかを問わず、法三九条三項所定の基準に従うべきであり、年度の初頭において職員の請求により立てられる休暇付与予定計画の付与予定日は法三九条三項にいう「労働者の請求する時季」に相当し、所属長による変更がない限り、右付与予定日につき休暇が成立し、職員の就労義務が消滅する。また、所属長による休暇付与予定計画の変更すなわち計画休暇付与予定日の変更は、法三九条三項所定の時季変更権の行使と異なるところはなく、同項ただし書所定のとおり、右付与予定日に計画休暇を付与することが「事業の正常な運営を妨げる場合」にのみに許されるものであり、この点に関し原審は本件労働協約等の解釈を誤つたものというべきである。

しかしながら、原審の確定した前記事実関係の下においては、上告人らに対し昭和四六年六月二六日又は同月二四日に計画休暇を与えることは、法三九条三項ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たると認めることができるから、原審の右解釈の誤りは、判決に影響を及ぼすものではない。

四次に、計画休暇の日数については、所属長が年度の初頭において職員の請求により業務の繁閑等をしんしやくして各人別に当該年度、中の休暇付与予定計画を立て、これによりその休暇を与えることとされているから、年度の途中において時季変更権を行使し、右計画の休暇付与予定日を変更することのできるのは、計画決定時においては予測できなかつた事態発生の可能性が生じた場合に限られるというべきである。そして、その場合においても、時季変更により職員の被る不利益を最小限にとどめるため、所属長は、右事態発生の予測が可能になつてから合理的期間内に時季変更権を行使しなければならず、不当に遅延した時季変更権の行使は許されないものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、上告人らの所属長は、昭和四六年六月二四日に至り同月二六日の上告人岩村の計画休暇付与予定日を変更し、同月二三日に至り上告人高橋の同月二四日の計画休暇付与予定日を変更したものであるが、その変更の理由は、同月二七日の参議院議員選挙投票日を控えて、同月二六日及び同月二四日の市内三区又は市内五〇区の要配達郵便物数が平常より増加することが見込まれ、その中に選挙関係の郵便物が混在している関係で、右要配達郵便物全部の即日完全配達を期すためには、右各区に常勤職員二名を配置し、そのうちの一名として上告人らを充てることが必要になつたというものである。このように、本件においては、計画休暇付与予定日のほぼ直前である同月二四日又は同二三日になつて時季変更権が行使されているが、もしこれらの日に接した時期になつて初めて右事態発生の予測が可能となつたものであり、本件計画休暇付与予定日の変更が不当に遅延してなされたものでないというのであれば、右変更をもつて有効なものと認めることができる。しかしながら、原審は、高知郵便局集配課においては年度途中の予測できない病気休暇や職員の希望による計画休暇の変更が従来少なくなく、また、郵便集配業務の特殊性として郵便物数を前もつて把握することが困難であるという一般的事情に触れるのみで、右事態の発生がいつの時点において予測可能となつたかについて何ら確定することなく、殊に参議院議員選挙投票日が相当以前から明らかになつているものであることとの関係について説明せず、本件計画休暇付与予定日の変更を有効としているのであつて、原判決にはこの点において審理不尽、理由不備の違法があるといわざるをえない。

五以上の次第であるから、論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、本件計画休暇付与予定日の変更の理由となつた前記事態の発生が予測可能となつた時期、右変更が不当に遅延してなされたものであるか否かについて更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(木下忠良 監野宜慶 宮﨑梧一 大橋進 牧圭次)

上告代理人萩原健二、同播磨源二の上告理由

原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

一、全逓信労働組合と郵政省との間の労働協約によつて、定められた郵政職員の計画休暇は、労働基準法第三九条所定の労働者の年次有給休暇の請求権にその根拠を置くもので、前年度分の未使用の年次有給休暇日数のうち、一〇日に達するまでの日数及び前々年度分の未使用の年次有給休暇日数について、年度当初に休暇予定日を計画的に決定するところに意味がある。

原判決は、計画付与の対象となる休暇は、労働協約等によつて繰越使用を認められた前年度及び前々年度の有給休暇であつて、労働基準法(以下労基法という)所定の年次休暇ではないと判断し、あたかも労基法上、労働者の前年、前々年分の年次有給休暇(以下年休という)請求権は、その年度内に行使しないときは、自ら消滅するかの如く論述するものであるが、そうだとすれば、労基法第三九条の解釈を誤つたものである。すなわち、労基法第三九条は、右の様に解釈しなければならない特段の根拠はないばかりか、年休請求権の行使が必ずしも円滑に行われず、未行使の状態を来たしがちな我国の現状等を考えると、多数の学説及び労働基準局長名通達(昭和二二年一二月一五日 五〇号)のいうように、発給年度約二年間の繰越を認める解釈が妥当というべきである。

従つて、計画休暇付与を受ける権利は、労働協約によつて創設されたものではなく、労働協約は、労基法上の年休請求権を確認し、これについて計画的な休暇の使用方法を定めたものに過ぎないのである。

この意味において計画休暇も本質的には、年次有給休暇と異なるものではないから、計画休暇の変更には、労基法第三九条三項但書の「事業の正常な運営を妨げる場合」であることが客観的な要件とされなければならない。因に、この点については、被上告人も上告人と同様の主張をするものである。

更に、計画休暇は、年度当初に、計画休暇を請求する各労働者の希望を提出させ、所属長が各労働者の希望日を把握したうえで、時季的な業務の繁閑等を勘案しながら、適当な時季に計画休暇付与予定日を割り振つて、各労働者の計画休暇予定日を全体として決定し、如何なる時季にも業務に支障を来たさないように、事前に慎重な策定をなすべき仕組をとおして、決められるものであるから、計画休暇付与予定日の直前になつて、年度当初に予測しえた事情を、計画休暇変更の理由とすることは許されないものと解すべきである。

しかるに、原判決は、計画休暇の変更には、労基法三九条三項但書の「事業の正常な運営を妨げる場合」を要件とする必要はなく、又、年度当初に予測しえた事情を計画休暇の変更の理由とすることは、許されない、との労働協約の解釈をせず、計画休暇の変更は、所属長の主観において業務の繁閑等各般の事情を考慮し、その状況に応じた合理的判断のもとに、業務の運行上必要であると認めたときは、年度の途中において何時でも可能であると判断し、もつて上告人両名に対する計画休暇の変更をいずれも合法であるとしたところに労働基準法第三九条三項但書の解釈及び適用を誤つた法令違背であり、更に、右法条との関連において前掲労働協約の解釈を誤つた法令違背がある。これら法令違背は、いずれも、明らかに判決に影響を及ぼすものである。

二、被上告人の第一審からの主張によると、上告人両名の計画休暇の変更の中心的な理由は、選挙郵便物(法定はがき)及び選挙関係郵便物(投票所入場券と不在者投票用紙)の投票日前迄の完全配送であるとされる。上告人等は、この点について同年六月二四日頃迄には、選挙郵便物、選挙関係郵便物ともに優先配送等の方法がとられたこともあり、全区をとおして、合計数通も残つていなかつたと主張し証人小笠原、同千谷の各証言及び上告人両名の本人尋問により立証をなしたが、原判決は、理由中において上告人岩村の件に関し「……当日(六月二六日)は一般郵便物のなかに選挙運動期間後半になつて差出されることの多い選挙郵便物が混在していたので……」とのみ認定したのみで、その総数量も、どの区にどの程度の数量があつたのかも全く認定しないばかりか、上告人高橋の担当区に、六月二四日以降選挙郵便物或は選挙関係郵便物が、どの程度あつたかも認定していない。而して、この計画休暇変更の理由とされる事実につき、正確な認定をせず、もつて計画休暇の変更を妥当とした理由を不明確にしているもので、原判決は、理由不備、又は審理不尽の法令違背がある。

三、右各証拠調べの結果によれば、六月二四日以降選挙郵便物及び選挙関係郵便物とも全区をとおして殆んど存在しなかつたことが認められるもので、原判決が、これに反する認定をするものであれば、原判決は、採証法則を誤つた判決に影響を及ぼすこと明らかな訴訟手続の法令違背がある。

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